2025〜2026年、ゲーム開発の世界で静かに広がっている動きがあります。Unity/Unreal/Godotを使わず、RaylibやSDLといった軽量ライブラリとZig/Odin/Rustでゲームを作る「エンジンなし開発」です。
一見すると時代に逆行しているように見えます。ゲームエンジンは過去20年間、「開発を簡単にするため」に進化してきたはず。なぜ今さらそれを捨てるのか?
しかしAIコーディングツール(Claude Code、Cursor、Copilot)の急速な進化を踏まえると、この動きの意味がまったく変わってきます。
この記事の主張
エンジンなし開発の復活は懐古趣味ではない。AIと最も相性のいい開発スタイルへの自然な収束である。重要なのは「エンジンを捨てること」ではなく、AIが追える形にゲーム開発を寄せること。
AIはコードを読む。GUIは触れない。
これがすべての出発点です。
Claude Code、Cursor、GitHub Copilot——2026年のAIコーディングツールは、コードベース全体を読み、依存関係を追い、差分を書き、設計を説明できます。しかし、GUIの操作はできません。ノードをつなぐことも、インスペクタの値を変えることも、ドラッグ&ドロップでオブジェクトを配置することもできない。
| AIが扱えるもの | AIが扱えないもの |
|---|---|
| ソースコード(C, Zig, Rust, C#...) | GUIノード接続(VFX Graph, Niagara, Animator) |
| JSON / CSV / YAML | インスペクタのパラメータ調整 |
| 設定ファイル | ドラッグ&ドロップによるシーン編集 |
| テキストベースのデータ | プレハブの参照設定 |
ゲームエンジンの多くの機能はGUIの上に構築されています。つまり、エンジンの機能が豊富であればあるほど、AIが直接触れない領域が増える。これがAI時代におけるエンジンの構造的な弱点です。
エンジンの「強み」は本当に強みか?
ゲームエンジンが優位とされてきた各機能を、「AIと協働できるか」という視点で再評価してみます。
UI — UGUI地獄、UI Toolkit未成熟
UnityのUI開発は長年の悩みの種です。UGUIはレイアウト地獄とCanvas Rebuildのコスト問題を抱え、UI Toolkitはまだ機能不足。UnrealのUMG/SlateもBlueprint依存が重い。
一方、ImGuiのようなコードベースUIなら、AIに「インベントリUIを作って」と言うだけで直接生成できます。
if (ImGui::Begin("Inventory")) {
for (auto &item : inventory) {
ImGui::Text("%s x%d", item.name, item.count);
}
}
ImGui::End();
UI = コードになった瞬間、AIが100%操作可能になります。
VFX — ノードGUIはAIの死角
Unity VFX GraphもUnreal NiagaraもノードベースのGUIです。AIがノードの意味を理解できても、GUI上でノードを操作することはできません。
コードベースのパーティクルシステムなら話は別です。
struct Particle {
Vector2 pos;
Vector2 vel;
float life;
Color color;
};
void spawn_explosion(Vector2 origin, Particle *pool) {
for (int i = 0; i < 50; i++) {
pool[i].pos = origin;
pool[i].vel = (Vector2){randf(-3,3), randf(-5,-1)};
pool[i].life = randf(0.3, 1.0);
pool[i].color = ORANGE;
}
}
AIに「爆発エフェクトを作って」と言えば、このレベルのコードは即座に生成できます。パラメータ調整も「パーティクルの寿命を長くして、色を赤→黄のグラデーションにして」で済む。インスペクタのスライダーを触る必要がありません。
アニメーション — Animator Controllerはブラックボックス
UnityのAnimator Controllerは典型的なGUIブラックボックスです。Idle→Walk→Attackの遷移条件はGUIに閉じ込められ、AIが直接編集できません。
コードベースのステートマシンなら、AIが状態追加・遷移条件の変更を即座に行えます。
レベルエディタ — 2DはTiled + JSONで十分
2Dゲームの場合、Tiled(タイルマップエディタ)→ JSON出力 → ゲーム側で読み込みというフローが確立されています。JSONはAIが読み書きできるため、レベルデータの自動生成や検証もAIに任せられます。
ただし3Dレベルデザイン(ライティング、Nanite、Lumen等)はビジュアル配置の重要性が高く、ここはエンジンのエディタが依然として優位です。
エンジンなし + AIが強い理由
全部テキスト = AIの探索空間
エンジンなし開発では、ゲームの状態がすべてコードとテキストデータに存在します。シーンファイルもプレハブも.animatorもない。AIがプロジェクト全体を完全に読める状態です。
APIが小さい = AIが正確
Raylibの関数は約100個。Unityの公開APIは数千。AIの探索空間が狭いほど、正確なコードを生成できます。Raylibのようなシンプルなライブラリは、AIにとって誤用パターンが少なく、サンプルからの類推もしやすい。
// Raylibでゲームを作る最小コード
InitWindow(800, 600, "Game");
while (!WindowShouldClose()) {
BeginDrawing();
ClearBackground(RAYWHITE);
DrawCircle(400, 300, 40, RED);
EndDrawing();
}
CloseWindow();
この程度のAPIなら、AIがほぼ完全に理解できます。ここに機能を足していく指示も、AIにとって自然な作業です。
| Raylib | Unity | |
|---|---|---|
| API関数数 | 約100 | 数千 |
| 学習コスト | 低い | 高い |
| AIの正確性 | 高い | ハルシネーションしやすい |
| プロジェクト全体の可読性 | 完全にテキスト | GUI状態に分散 |
データ構造が透明 = バグ追跡が速い
Zig、Odin、Rustのようなデータ指向言語では、データ構造が露出し、更新ループが明示的で、メモリや所有権の設計がコードに現れます。AIが「なぜこのバグが起きたか」を追跡しやすい環境です。
AIへの指示がシンプルになる
Raylib + AIの場合
「プレイヤーに慣性付き移動を追加して」→ AIが直接実装
Unity + AIの場合
「プレイヤーに慣性付き移動を追加して」→ MonoBehaviour? Rigidbody? CharacterController? Input System? プレハブ参照は? エディタ設定は? → AIの探索空間が巨大
それでもエンジンが必要な場面
エンジンなし開発が万能だとは言いません。以下の2領域では、ゲームエンジンの優位は依然として明確です。
| 領域 | 理由 |
|---|---|
| 高品質3Dレンダリング | Nanite、Lumen、HDRP級のレンダリングを自作するのは非現実的 |
| 大規模アセット管理 | FBX/USD/シェーダーパイプラインの統合管理は個人での再構築が困難 |
マルチプラットフォームは? — 思ったよりなんとかなる
「エンジンなしだとマルチプラットフォームが厳しいのでは?」——これは最もよく聞かれる懸念ですが、2026年時点ではインディーの主戦場はほぼカバーできます。
| プラットフォーム | 対応状況 | 方法 |
|---|---|---|
| PC(Win/Mac/Linux) | 問題なし | Zigはzig build -Dtarget=x86_64-windowsだけでクロスコンパイル。別途ツールチェーン不要 |
| Web | 問題なし | Raylib/SDLはWebAssembly対応済み。Emscriptenでブラウザ向けビルド可能 |
| Android | 対応済み | Raylibは公式でAndroidビルドをサポート |
| Nintendo Switch | 対応可能 | RaylibにSDLバックエンドが追加され、たった2日でSwitch対応が実現した実績あり |
| iOS | やや弱い | Raylib公式は未対応だが、SDL経由で対応可能。コミュニティでiOS実装PRが進行中 |
| PS / Xbox | 要NDA | コンソールSDKへのアクセスが必要。SDLベースなら移植自体は可能 |
PC + Web + Android + Switchでインディーゲームの主要プラットフォームは大半カバーできます。特にZigのクロスコンパイルは強力で、ホスト環境に関係なく全ターゲットに対応できます。iOSとPS/Xboxだけはまだエンジンの方が楽ですが、そもそもインディーでPS/Xboxに出すケースは少ない。
つまりマルチプラットフォーム対応は「エンジンなしの致命的弱点」ではなく、「対応範囲を理解して選べる程度の制約」になっています。
逆に言えば、高品質3Dレンダリングと大規模アセット管理が不要なゲーム——2Dアクション、ローグライク、弾幕STG、ターン制RPG、パズル、シミュレーション——では、エンジンなし + AIが最も生産性の高い選択肢になり得ます。
AI時代のゲーム開発スタック
2026年の「エンジンなし + AI」開発で実際に使われているスタックはこうです。
| 役割 | ツール |
|---|---|
| 描画・入力・音声 | Raylib / SDL3 / sokol |
| 言語 | Zig / Odin / Rust |
| UI | ImGui(コードベース) |
| レベルデータ | Tiled → JSON |
| AIコーディング | Claude Code / Cursor / Copilot |
| バージョン管理 | Git(バイナリ資産が少ないため軽量) |
このスタックの特徴
- プロジェクト全体がテキストファイルで構成 → AIが100%読み書き可能
- エディタのダウンロード不要 → Raylibは120KB、ImGuiは数MB
- ライセンス費用ゼロ、将来の価格変更リスクもゼロ
- Gitで差分管理が完全に機能する(バイナリシーンファイルがない)
「エンジンを捨てろ」ではない
この記事の主張は「Unityを捨てろ」ではありません。重要なのは「AIが追える形にゲーム開発を寄せること」です。
Unityを使い続ける場合でも、以下のアプローチでAI協働の効率は大きく上がります。
- ScriptableObjectやJSON/CSVでデータをテキスト化する
- GUI手作業を減らし、エディタ拡張やコード生成を増やす
- Animator Controllerの代わりにコードベースのステートマシンを使う
- VFXをコードベースに寄せる
つまりどのツールを使うかより、「AIが理解できる表現形式になっているか」が生産性を決める時代に入っています。
まとめ
2025〜2026年の「エンジンなし開発」の復活は、ノスタルジーではなく、AI駆動の開発スタイルへの合理的な移行です。
ゲームエンジンの価値がすべて消えるわけではありません。3Dレンダリング、マルチプラットフォームビルド、大規模アセット管理——これらはエンジンの正当な強みとして残り続けます。
しかし、それ以外の多くの領域——UI、VFX、アニメーション、レベルデザイン——で「GUIに閉じ込められた資産」がAI時代の足かせになりつつあるのも事実です。
これからのゲーム開発で最も生産性が高いのは、AIが全体を追えるシンプルなコードベースの上で、AIと人間が協働するスタイルです。それがエンジンなしなのか、エンジンをAI向きに使いこなすのかは、あなたが作るゲーム次第です。
参考ソース
- Game Dev Without An Engine: The 2025/2026 Renaissance — SitePoint
- Raylib — A simple and easy-to-use library to enjoy videogames programming
- No-engine gamedev using Odin + Raylib — Karl Zylinski
- Making Video Games in 2025 (without an engine) — Hacker News
- AI in Game Development in 2026: What's Production-Ready — Bix Tech
- 10 ways 2026 will be a turning point for game design — Creative Bloq
- Cursor is rolling out a new kind of agentic coding tool — TechCrunch
- Unity says its AI tech will soon eliminate the need for coding — Game Developer


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