MAPPAがBlenderを使った — 2035年に生き残る3Dソフト、消える3Dソフト

3DCG
この記事の結論
2035年に起きるのは「ソフトの消滅」ではなく「役割の再配置」です。モデリング、スカルプト、リアルタイム、シミュレーション — それぞれの工程に強いソフトが生き残り、弱いソフトは統合・吸収されていきます。重要なのは「どのソフトを使うか」ではなく「どの工程を理解しているか」です。

大手スタジオがBlenderを選んだ事実

最近、アニメ制作の現場で小さくない変化が起きています。

TVアニメ『LAZARUS ラザロ』の3DCG制作にBlenderが導入されました。

この作品は『カウボーイビバップ』の渡辺信一郎監督によるオリジナルアニメで、制作はスタジオMAPPA。2025年放送の全13話です。大手スタジオの制作工程でBlenderが使われた事例は、単なるツール変更ではありません。3Dソフトの勢力図が変わり始めている可能性があります。

CGWorldの講演スライド「Blenderでよかったのはどこ?」本番ルックとビューポートプレビューの比較

「Blenderでよかったのはどこ?」— Blenderはビューポートレンダリングでも本番ルックに近い状態でチェックできる点が評価された(出典: CGWorld / あにつく2025講演)

そこで一つの疑問が出てきます。

2035年までに消える可能性がある3Dソフトには、どんな共通点があるのか?

過去20年を振り返ると、統合や開発停止に追い込まれたソフトは数多くあります。Softimage(旧XSI)はAutodeskに買収された後2015年に開発終了。LightWave 3Dはかつて映像業界の定番でしたが、現在はほぼ使われていません。

次に消える側に回るソフトには、6つの共通する特徴があります。

1. 特定の分野だけに依存している

3Dソフトは映像・ゲーム・製品デザイン・建築・研究など複数の分野で使われています。

このうち一つの用途だけに依存しているソフトは弱い。その分野の需要が落ちた瞬間に直撃するからです。

現在は映像・ゲーム・VR・リアルタイムなど複数の用途が混ざり合っており、用途が広いソフトほど生き残りやすい構造になっています。Blenderが急成長したのは、モデリング・アニメーション・レンダリング・VFX・動画編集まで1本でカバーする汎用性があったからです。

Blenderのビューポート画面。製品モデルのPBRレンダリングとノードエディタが表示されている

Blenderのビューポート。モデリングからレンダリングまで1本でカバーする汎用性が、あらゆる業界への浸透を可能にした(出典: InspirationTuts)

2. リアルタイム技術に対応していない

3D制作の流れは大きく変化しています。

時代 主流 特徴
〜2015年頃 オフラインレンダリング中心 1フレームに数分〜数時間かけて高品質な画を出す
2015年〜現在 リアルタイム表示中心 ゲームエンジン(UE5等)でリアルタイムに最終品質を確認

ゲームエンジンの発展により、リアルタイムライティング・リアルタイムシャドウ・リアルタイム物理が標準になりつつあります。映画制作ですらUnreal EngineのバーチャルプロダクションやNaniteが使われる時代です。

この流れに対応できないソフトは、制作工程から外されやすくなります。

3. データ互換性が弱い

現在の3D制作は複数ソフトを組み合わせることが前提です。

モデリング(Maya/Blender)→ スカルプト(ZBrush)→ テクスチャ(Substance Painter)→ ゲームエンジン(UE5/Unity)

このパイプラインで重要なのは:

  • データ形式の標準対応(FBX, glTF, USD, OpenEXR)
  • 他ソフトとのシームレスな連携
  • 制作工程間の接続の滑らかさ

独自形式しか使えない、他ソフトとの連携が弱い — そんなソフトはパイプラインから外されます。最近ではPixar発のUSD(Universal Scene Description)が業界標準になりつつあり、USD対応の遅れは致命的になる可能性があります。

4. 学習コストが高すぎる

Autodesk Mayaのモデリング画面。ポリゴンモデリングツールとビューポートが表示されている

Mayaのモデリング画面。業界標準の地位は揺るがないが、学習コストとサブスク料金がハードルになりつつある(出典: InspirationTuts)

3Dソフトは基本的に難しいです。しかし最近は操作が直感的なソフトが増え、YouTubeの学習素材も豊富になりました。

Blenderは2.8で大幅にUIを刷新し、それが爆発的なユーザー増加につながりました。逆に、操作が複雑すぎる・覚える項目が多すぎる・初心者が入ってこないソフトは、ユーザーが増えません。

ユーザーが増えないソフトは長期的に開発が続きにくい。新規ユーザーの獲得は、ソフトの生存に直結する問題です。

5. 開発スピードが遅い

3D技術は非常に速く進化しています。ここ数年だけでも:

  • AI生成 — テクスチャ・モデル・モーションの自動生成
  • ノードベース制作 — Geometry Nodes, Houdini的なプロシージャル手法の普及
  • GPU計算 — シミュレーションやレンダリングのGPU移行
  • リアルタイムレイトレーシング — RTX以降の標準化

更新が遅い、新しい技術が入らないソフトは徐々に使われなくなります。特にAI統合のスピードは今後の生死を分ける要素になるでしょう。

6. 個人ユーザーが少ない

現在の3D業界では、個人クリエイター・学生・小規模スタジオの存在が非常に大きくなっています。

もし「企業だけが使う」「個人が触れない(価格・ライセンス的に)」状態になると、新しいユーザーが入ってきません。結果として市場が縮小し、開発継続が困難になります。

Blenderが無料、ZBrushがMaxon傘下で個人ライセンスを整備、Substance系がサブスクで個人に開放 — これらはすべて「個人ユーザーを取り込まないと生き残れない」という現実への対応です。

結論 — 消えるのではなく、役割が再配置される

2035年に起きる可能性が高いのは、ソフトの消滅ではなく、ソフトの役割の再配置です。

一つのソフトがすべてを担う時代ではなく:

  • モデリングに強いソフト
  • スカルプトに強いソフト
  • リアルタイム表示に強いソフト
  • シミュレーションに強いソフト

という形で役割が整理されていく可能性が高いです。

『LAZARUS ラザロ』でMAPPAがBlenderを採用したのは、この再配置の一例に過ぎません。重要なのは「どのソフトを使うか」ではなく、「どの工程を理解しているか」です。

ソフトは変わります。でも「モデリングの原理」「ライティングの考え方」「シェーダーの仕組み」は変わりません。特定のソフトに依存せず、工程そのものを理解しているクリエイターが、どの時代でも生き残るのです。

参考ソース

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