「世界初の100%AIゲーム」を疑う ― 宣伝を剥がして残った「71分」

ゲーム制作技術

はじめに(この記事の立場):本記事は、Codex Mortisの「世界初の100%AI製ゲーム」という看板をマーケティングとして疑い、宣伝を剥がして"何が本物か"だけを残す分析である。筆者は普段からClaude CodeとChatGPTで実際にものを作っている。だからこそ、道具の実力を知ったうえで、「100%AI」という言葉がどこまで本当かも分かる。フルプレイのレビューではない。

結論:「世界初の100%AI製ゲーム」は、半分マーケティングだ。"100%"は検証できないし、ほぼ確実に盛られている。そして炎上そのものが仕込まれた集客装置――海外メディアにすら「レイジベイト(炎上商法)では」と書かれている。

だが、宣伝を全部剥がしても、消えない事実が一つだけ残る。無料デモを1万人超が、平均71分遊んだ(インディーデモ平均の約4倍)。見るべきはそこだけだ。あとは煽りである。

2025年12月、Steamにある無料デモが公開され、ゲーム業界が小さく炎上した。タイトルはCodex Mortis。開発元GROLAF(パブリッシャーCRUNCHFEST)が「世界初の、100%AIで作られたプレイ可能なゲーム」と銘打ったからだ。

PC Gamerは「slop(生成ゴミ)の記念碑」と切り捨て、Creative Bloqは「究極のレイジベイト(炎上商法)では?」と疑った。賛否は激しく割れた。だが、ここで一歩引きたい。その賛否そのものが、たぶん"狙い通り"だ。本稿は、まず看板を疑うところから始める。

まず「100% AI」というラベルを疑う

「100%AIで作った」と聞くと、ボタンを押したらゲームが吐き出されたように響く。だが現実はそうではない。この看板には、語られていない人間の仕事が大量に隠れている。

  • 誰がAIに指示を出したのか。「こういう弾幕ローグライトを作れ」「この敵を直せ」と何百回もプロンプトを書いたのは人間だ
  • 誰が取捨選択したのか。AIの出力は玉石混交だ。使える絵・動くコードを選び、ダメな出力を捨てたのは人間の判断
  • 誰がデバッグし、Steamに並べ、宣伝したのか。公開作業も、この炎上を起こした宣伝も、全部人間

つまり実態は「100%AI」ではなく、「人間がディレクションし、AIを道具として全工程に使った」が正確だ。"100%"は検証不能で、ほぼ確実に盛られている。これは技術の事実というより、耳目を引くためのラベル――要するにマーケティングのコピーである。

炎上そのものが「商品」だ

もう一つ剥がしておく。なぜこのデモは1万人も集めたのか。ゲームが面白そうだったから――だけではない。「AIがゲームを作るなんて許せない」という感情を、的確に刺激したからだ。

「100%AI製」と宣言すれば、AIに仕事を奪われる不安、アート学習への怒り、"魂のない作品"への嫌悪が一斉に着火する。批判コメントが伸び、引用で拡散し、メディアが「賛否両論」と書く。怒りが流通経路になる。Creative Bloqの「レイジベイト」という指摘は、この構造を言い当てている。炎上は事故ではなく、設計だ。

Codex Mortisのボス戦画面
ボス「最初のネクロマンサーの残響」戦。生成アート特有の情報過多・濁りが、そのまま"AIっぽさ"として炎上の燃料になった。(画像:CODEX MORTIS/GROLAF・CRUNCHFEST、Steamストアより)

宣伝を全部剥がす。すると一つだけ残る

「100%AI」というラベルを剥がす。仕込まれた炎上も剥がす。slopという罵倒も、礼賛も、全部脇に置く。では、宣伝抜きで本当に起きた事実は何か。たった一つだ。

剥がした後に残った数字
無料デモを遊んだプレイヤー 10,500人超
平均プレイ時間 約71分
インディーデモ業界平均との比 約4倍

これは宣伝で水増しできない数字だ。怒りでクリックさせることはできても、つまらないゲームを71分遊ばせ続けることはできない。批判者は「見た目」を叩いたが、1万人は「手触り」で投票した。slop論争が見落としているのは、ここだ――叩かれているのは"絵"、人を留めたのは"ゲームとしての成立"。議論が噛み合っていない。

71分が意味すること、しないこと

ただし、ここでも盛らない。71分は「コアループが機能している」ことの証拠であって、「神ゲー」の証拠ではない。

Codex Mortisのスペル編成画面(Grimoire)
ラン前のスペル編成画面。ネクロマンシー・呪い・ソウル魔法の3系統からビルドを組む。手触りが成立しているのは、この設計部分が機能しているからだ。(画像:CODEX MORTIS/GROLAF・CRUNCHFEST、Steamストアより)

実際、面白さの中身は評価が割れている。「ビルドの多様性は人間製の競合を超える」という声がある一方、「敵が似通っていてコピペ感がある」「魔法5系統も本当の深さに欠ける」という指摘もある。コアループは握れている。だが、長く遊ばせる作り込み(コンテンツ量・敵の多様性・演出)はこれから。71分が示すのは「実証実験として成立した」までで、「製品として完成した」ではない。ここを混ぜると、また別の煽りになる。

では、本当に注目すべき変化は何か

看板を剥がし、数字を冷静に見たうえで、残る本物の論点はこうだ。「100%AI」は嘘でも、"AIを道具に、個人が3ヶ月で遊べるものをSteamに出せた"のは本当だ。これは派手な見出しよりずっと地味だが、ずっと重い。

使われたのはClaude CodeとChatGPT――研究用の特別な何かではなく、誰でも契約できる市販のAIだ。出来上がりの磨きはまだ甘い。だが「専門スキルの壁を越えて、個人が遊べるものを世に出す」入口は、確実に下がった。怖いのはこの1本目ではない。この入口を、もっと腕のある誰かが使って作る2本目だ。そのとき「AIで作った」はもう宣伝文句にすらならず、ただ普通に面白いゲームが、普通に増える。

筆者の本音:毎日使ってるから、"裏に何が隠れてるか"が分かる

筆者(uc)は、このブログの記事も、画像の処理も、ちょっとした自作ツールも、Claude CodeとChatGPTを毎日使って作っている。Codex Mortisを作った道具と、まったく同じものだ。

毎日使うと、嫌でも体に分かることがある。AIは「ボタン一発で完成品」なんてくれない。最初の出力はだいたい的外れで、「そうじゃない、ここをこう直して」を何十回も投げ返して、ようやく形になる。使えない出力を捨てる判断も、最後に本当に動くか確かめるのも、結局こっちの手作業だ。だから「100%AIで作った」と聞いた瞬間、その言葉の裏に隠れている"何十回のやり直し"が透けて見える。あれを"全自動"と呼ぶのは、正直うそに近い。

でも、同じ毎日の経験が、逆のことも教えてくれる。昔なら専門家に頼むか、自分で何週間も勉強するしかなかった作業が、指示を書くだけで数十分で動く形になる。この手応えを知っていると、「所詮slop」と鼻で笑う気にはとてもなれない。道具そのものの底上げは、もう本物だ。

だから僕の結論はシンプルだ。「100%AI」という看板は宣伝。でも、その下で動いている道具は本物。煽る人は看板を売りつけ、見下す人は道具を見ていない。毎日触っていると、その両方が同時に見える――ただ、それだけの話だ。

まとめ

Codex Mortisは「世界初の100%AI製ゲーム」という看板で炎上した。だが看板は宣伝、炎上は集客装置、"100%"は盛り――そこを剥がすのが先だ。剥がした後に残るのは、たった一つ。1万人が平均71分遊んだ(業界の約4倍)。これだけが、誰にも水増しできない本物の信号である。

結局これは、AIゲームの話というより、情報の読み方の話だ。煽り見出しに賛成も反対もする前に、宣伝を剥がして"水増しできない数字"を一つ探す。Codex Mortisでそれは「71分」だった。次に「世界初」「100%」「革命」という言葉を見たら、同じことをやればいい。核は一つ、あとは大体マーケティングだ。


参考ソース:

  • CODEX MORTIS(Steam ストアページ・記事内スクリーンショット出典):https://store.steampowered.com/app/4084120/
  • Insider Gaming「The 'World's First Game Created 100% Through AI' Has a Playable Demo」:https://insider-gaming.com/ai-game-playable-demo-codex-mortis/
  • Creative Bloq「Is the 'first 100% AI video game' the ultimate rage bait?」:https://www.creativebloq.com/3d/video-game-design/is-the-first-100-percent-ai-video-game-the-ultimate-rage-bait
  • PC Gamer("milestone for slop"批評):https://www.pcgamer.com/games/roguelike/
  • The Game Slayer「Codex Mortis Turns Vibe Coding from Meme to Method」:https://thegameslayer.com/features/codex-mortis-preview/
  • Bullet Haven「Codex Mortis Review (Early Access)」:https://bullethaven.com/review/codex-mortis

※本記事は公開情報・各メディアのレビューおよび開発者公表値に基づく分析であり、筆者によるフルプレイのレビューではありません。数値(プレイヤー数・平均プレイ時間等)は開発者・各メディア公表のデモ時点のものです。

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